戒名は、法律で義務づけられたものではありません。ただし、菩提寺(先祖代々のお寺)のお墓に納骨する場合は、実質的に必要になることがあります。「いらない」と決める前に、必要・不要が分かれる3つの判断軸と、戒名なしで弔う方法を確認しておきましょう。仏壇修復にも携わるお位牌Maker®が中立的に解説します。
そもそも戒名とは──没後に授かる仏弟子の名
戒名は、仏門に入った証として授かる名前です。もともとは生前に出家者へ授けるものでしたが、江戸時代の檀家制度を通じて「没後に授かる」慣習が広まりました。宗派によって呼び方が異なり、浄土真宗では「法名(ほうみょう)」、日蓮宗では「法号」と呼びます。戒名の意味や構成は戒名とはで解説しています。
戒名の構造とランク──費用に幅がある理由
「戒名はいらない」と考える大きな理由の一つが費用です。戒名料に大きな幅があるのは、戒名が院号・道号・戒名(本体)・位号の4つの要素で構成され、末尾の位号のランクによって格式とお布施の目安が変わるためです。位号は一般に「信士・信女」→「居士・大姉」→「院号(院信士・院居士など)」の順に格が上がり、とくに院号は、もともと身分の高い方や寺院に大きく貢献した方に授けられてきた歴史から高額になりやすいとされます(相場や慣習は宗派・寺院・地域で大きく異なります)。位号ごとの意味と費用の目安は戒名のランク(位号)一覧で詳しく解説しています。
一方で、俗名(生前のお名前)で作る位牌には、こうしたランクの概念がありません。格式や費用の比較に悩まず、生前のお名前で静かに手を合わせられることを、戒名を選ばない場合の気楽さと感じる方もいらっしゃいます。どちらが良いということではなく、ご家族の考え方に合う形を選んでいただけます。
戒名を簡素にする人は少なくない──調査から見る傾向
「戒名をつけないのは非常識では」と不安に感じる方もいますが、供養を簡素にする流れ自体は広がっています。目安として民間の調査を見てみましょう(公的な統計はなく、調査主体や年によって数字は変動します)。
- 鎌倉新書「お葬式に関する全国調査(2022年)」では、家族葬が約55.7%、僧侶を伴わない直葬・火葬式が約11.4%と、葬儀を簡素にする選択が一定の割合を占めています。
- 保険クリニックの意識調査(回答者600人規模)でも、「戒名は省略してもよい」と考える人が半数を超えたという結果が報告されています。
あくまで一部の民間調査ですが、戒名をつけない・簡素にするという選択は、決して珍しいものではなくなってきているといえます。周囲の目より、ご家族が納得できるかどうかを軸に考えて構いません。
戒名は本当に必要か──3つの判断軸
戒名が必要かどうかは、次の3点で考えると整理しやすくなります。
判断軸① 菩提寺のお墓に納骨するか
- 寺院墓地・納骨堂に入る → 戒名が実質的に必要(戒名なしだと納骨を断られる例があります)
- 公営墓地・宗旨不問の民営霊園 → 不要
判断軸② 葬儀の形式(仏式かどうか)
- 仏式葬儀 → 僧侶が戒名を授けるのが通例
- 無宗教・直葬 → 戒名を授かる機会がないことが多い
判断軸③ 家族・親族の意向と地域の慣習
- 本人の意思と親族の意向が食い違うとトラブルになりやすい
- 地域によっては「当然つけるもの」という感覚が根強い
戒名なしのメリット・デメリット
メリット──費用と手間を抑えられる
戒名のお布施(戒名料)は、位号のランクで幅があります。信士・信女で10〜50万円、居士・大姉で50〜80万円程度、院号が付くと100万円以上とされることが多いようです(地域・寺院・ランクで大きく異なります。詳しくは戒名のランク(位号)と費用)。戒名をつけなければ、この費用と手続きを抑えられます。
デメリット──菩提寺・親族・納骨への影響
- 寺院墓地への納骨を断られることがある
- 親族から理解を得にくい場合がある(特に年長世代・地方)
- ただし位牌は俗名で作れるため、「弔えなくなる」わけではありません
「つけない」の前に──戒名料を抑える選択肢もある
「戒名はいらない」と考える理由が主に費用であれば、戒名を授かりつつ負担を抑える中間の方法も知っておくと選びやすくなります。なお、以下はいずれも、菩提寺がある場合はまずその意向を確認したうえで検討する選択肢です。
- 生前戒名……存命のうちに授かる戒名で、逝去後に授かるより費用を抑えられる傾向があります(目安5万〜40万円程度・寺院により異なります)。
- 位号を上げすぎない……院号などの高位を選ばなければ、お布施の目安は下がります。菩提寺に率直に相談してみましょう。
- 菩提寺がない方向けの戒名授与サービス……定額で戒名を授けるサービスもあります(数万円〜が目安)。ただし菩提寺がある場合に無断で他所の戒名を用いると、納骨を断られるなどのトラブルになり得るため、必ず事前に菩提寺へ確認してください。料金は変わるため各社に最新の内容をご確認ください。
菩提寺との縁を離れる「離檀」を検討する場合、感謝のお布施として離檀料(目安10万〜30万円程度)を包む慣習があります。墓地の契約や寺院の規則に定めがなければ、離檀料に明確な支払い義務は原則ないとされますが、金額は寺院との話し合いで決まるものです。高額を提示されて困ったときは、まず寺院へ丁寧に事情を伝え、それでも折り合わない場合は本山や国民生活センター、弁護士などの窓口に相談する方法があります。いずれも対立ではなく、円満な相談を第一に進めるのが安心です。
「戒名がないと成仏できない」は本当か
浄土真宗・禅宗など複数の宗派においては、仏教の教義上、「戒名の有無が成仏を決める」という見解は示されていません。
- 浄土真宗…阿弥陀如来の本願により、法名の有無にかかわらず往生するという教えです(本来は位牌も用いません)。
- 禅宗(曹洞宗・臨済宗)…受戒(戒を受けること)を仏弟子の証として大切にしますが、「戒名がなければ成仏できない」とは説いていません。
「成仏できない」という言い方が広まった背景には、江戸の檀家制度や位号のランク付けがあったとされます。ただし、宗派やお寺によって位牌・戒名の位置づけは異なるため、ご自身の宗派の菩提寺に確認するのが最も確実です。
戒名なしでも丁寧に弔う方法
俗名位牌を作る──「之霊位」を添える
戒名がなくても、生前のお名前(俗名)で位牌を作れます。表面に「山田花子之霊位(のれいい)」のように俗名+「之霊位」を記し、裏面に没年月日・行年を入れるのが標準です。「之霊位」「位」を添えることで、仏式の供養と同等の意味を持つとされます。作り方・レイアウトは俗名位牌(戒名なしの位牌)の作り方で詳しく解説しています。お位牌Maker®では俗名のままお作りいただけます。
戒名なしで選べる納骨先
- 公営墓地・宗旨不問の民営霊園
- 永代供養墓・納骨堂(宗教自由型)
- 樹木葬・散骨(戒名不要)
俗名位牌でもお坊さんに拝んでもらえる?──開眼供養の実務
戒名なしで俗名位牌を作ったあと、「お坊さんに魂入れ(開眼供養)をしてもらえるのか」という不安をよく耳にします。結論として、俗名位牌でも開眼供養を受けられることが多いですが、お寺の考え方によって対応は分かれます。戒名を勧められる場合や、まれに俗名では受けないという寺院もあるため、菩提寺がある方は事前に確認しておくと安心です。
お位牌をお作りする現場でよくご質問いただく点として、俗名位牌の書き方にも触れておきます。表面には「〇〇之霊位」のように生前のお名前へ「之霊位」を添え、裏面に没年月日と行年(享年)を記すのが一般的です。なお、白木位牌に見られる「空」「新帰元」などの冠字・梵字(種子字)は、本尊を表す宗教的な記号として戒名とともに用いるのが通例のため、俗名位牌には基本的に入れません。戒名なしの位牌の書き方は俗名位牌(戒名なしの位牌)の作り方もあわせてご覧ください。
菩提寺がある場合──相談のタイミングと進め方
菩提寺がある場合は、「事前の相談」が何より大切です。できれば生前、遅くとも葬儀の前に、次の3点を確認しましょう。
- そのお墓に俗名(戒名なし)で納骨できるか
- 戒名をつけないと離檀になるか
- 戒名の授与だけを依頼できるか
断られた場合は、公営墓地・宗旨不問霊園への改葬や、戒名授与サービスの利用という選択肢もあります。「戒名なし=菩提寺との縁を切る」ということではありません。寺院にはそれぞれの慣習があるため、まずは率直にご相談ください。
葬儀の形式で変わる、戒名の要否
戒名を授かる機会は、葬儀の形式によっても変わります。ただし形式で自動的に決まるわけではなく、最終的には「菩提寺のお墓に入るか」(判断軸①)が本質です。
- 一般葬・家族葬(仏式)……僧侶が読経するため、戒名を授かるのが通例です。ただし家族葬では要否の判断が分かれることもあります。
- 一日葬(仏式)……読経を伴うことが多く、戒名を授かるのが一般的です。
- 直葬・火葬式……僧侶の読経を伴わないことが多く、戒名の有無が問題になりにくい形式です。後日必要になれば授かることもできます。
戒名は後からでも授かれる──今すぐ決めなくてよい
「葬儀の段階で決めなければ、もう戒名はつけられない」と思われがちですが、そうではありません。戒名は、葬儀のあと落ち着いてから授かることもできます(後付け戒名)。菩提寺や寺院に依頼すれば、後日でも授与を受けられます。
そのため、いったん俗名位牌でお祀りし、気持ちが定まってから、あるいは必要が生じたときに戒名を授かって本位牌を用意し直す、という進め方も選べます。授かってからの流れは、寺院に授与を依頼し、その戒名でお位牌をお作りし(文字入れは数日〜数週間が目安)、これまでの俗名位牌は魂抜き(閉眼供養)をしたうえで、新しいお位牌に僧侶から魂入れ(開眼供養)をしていただく、というものです。今この瞬間にすべてを決めきる必要はありません。ご家族のペースで整えていって大丈夫です。
まとめ──戒名を決める前に
- 戒名は法律上の義務ではない
- 菩提寺のお墓に入るなら、実質的に必要になることが多い
- 「成仏できない」は俗説。最終的には菩提寺・ご家族と相談を
- 戒名なしでも、俗名位牌で丁寧に弔える
位牌は信仰の証であると同時に、ご家族が故人と向き合う拠り所でもあります。迷ったときは、まず菩提寺とご家族に相談してみてください。戒名なしで位牌をお考えの方は俗名位牌の作り方、そもそも位牌を作るか迷う方は位牌は必要かもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 戒名がないと位牌は作れませんか?
作れます。俗名(生前のお名前)+「之霊位」の形式で位牌を作ることが可能です。「山田花子之霊位」のように俗名に「之霊位」を添えることで、戒名と同等の意味を持つとされています。お位牌Maker®では戒名なしの俗名位牌にも対応しています。
Q. 戒名がないと成仏できないのですか?
「戒名がなければ成仏できない」は仏教の公式な教義ではなく、江戸時代の檀家制度を背景に広まった俗説です。浄土真宗では「法名の有無にかかわらず阿弥陀如来の力で往生する」と説きます。他宗派でも、戒名の有無が成仏を決定するという教えはありません。大切なのは、ご遺族が心を込めて供養することです。
Q. 菩提寺がある場合でも戒名を省略できますか?
菩提寺のお墓に納骨する予定がある場合は、戒名なしだと納骨を断られる可能性があります。まず菩提寺に「俗名のままで納骨できるか」を事前に確認することをおすすめします。断られた場合は、公営墓地や宗旨不問霊園への改葬を検討するか、戒名授与のみを依頼する方法もあります。
Q. 無宗教・直葬の場合、位牌は作らなくてもよいですか?
法律上の義務はありません。ただし、後から「手を合わせる場所がほしい」と感じるご遺族も少なくありません。戒名がなくても俗名位牌を作り、仏壇に安置することはできます。作るかどうかは、信仰よりも「ご家族が故人と向き合う拠り所を持つか」という視点で決めてよいものです。
Q. 浄土真宗は戒名が不要と聞きましたが本当ですか?
浄土真宗では「戒名」ではなく「法名」を授け、形式が異なります(釋〇〇の形で、位号は付けません)。また本来は位牌を用いず、過去帳や法名軸を用います。「戒名が不要」というより「仏教の捉え方が他宗派と根本的に異なる」と理解するのが正確です。詳しくは浄土真宗の位牌をご覧ください。
